「正しい街」3

当時私達が溜り場にしていたゲームセンターは「オートレストランサーカス荒江店」と言い、その名の通り以前はドライブインであった。店内の奥にはバーカウンターと厨房があり、店番の老婦人と老人はレストラン時代のマスターとウェイトレスであったらしい。このような事情からあまりゲーム機に詳しくなかった二人に代わり、私が簡単なマシンメンテナンスを代行することもしばしばあった。
このゲームセンターの運営をしていたのは、「サービスゲーム」という会社で、この名前でピンとくる業界関係者も少なくないと思うが、セガの前身である「サービスゲームス」のディストクリストマネージャーであった児玉氏が独立して興した会社であった。そのため、店内はセガ社のマシンを中心に構成されており、また最新機種が常に導入されていた。そうした環境に触れられたのは、後にセガ店舗で勤務する私にとって貴重な経験となった。
私は高校に入学してすぐにこの店の常連客となり、徐々に友人を増やしていった。この店で出来た最初の友人「K」は、私とカプコンシューティングゲーム「1943ミッドウェイ海戦(1987年)」でハイスコアを競い合あっていたが、やがて二人同時プレイでのハイスコアを狙うようになった。これは、単に二人とも互いの順番待ちをするのが嫌だったということもあるが、当時のカプコンシューティングは1985年の「エグゼドエグゼス」、1986年の「サイドアーム」、そして1988年の「ロストワールド」など、二人同時プレイにフォーカスしたゲーム構成・レベルデザインがなされており、その方がより楽しめた、という事情もあった。*1
「K」とはその後の1988年暮れにセガからリリースされた「ゲイングラウンド」ではパートナーとして、「テトリス」ではライバルとして競い合うことになる。また、「K」は非常にファッションセンスにたけた人間であった。小学生時代を制服で過した私は福岡の同級生達と比べ私服のセンスにコンプレックスがあったため、彼を手本にし、アドバイスを受けることでそれを克服しようと試みた。
1989年の福岡市は空前の好景気に沸いていた。全国的にもバブル景気に沸いていた時期であるが、福岡市はそれに「アジア太平洋博覧会よかトピア)」が開催されるという事情が重なっていた。繁華街のゲームセンターは真新しい「アミューズメントスポット」へと姿を変えていった。私達はそうした店舗にも足を伸ばすようになった。そこではカップルが「ファイルラップ(1987年ナムコ)」で嬌声を上げ、メダルゲームコーナーでは「ワールドダービー(1988年セガ)」でフィールドを自在に駆け回るリアルな馬の動きにに皆が驚き、次いで虜となり、プライズゲームコーナーではアンパンマンなどのキャラクターヌイグルミを獲得しようと老若男女が100円玉を注ぎ込んでいた。
私はどちらかといえば、いわゆる「インベーダーハウス」然としたの店舗よりも、繁華街にある煌びやかな店舗の方が好きであった。娯楽産業である以上、時代に合わせて変化することは当然で、停滞は即ち衰退を意味すると思っていたし、これは現在でもそう思う。それに、この時期から私を夢中にしたピンボールは繁華街の店舗に集中して設置されていたという事情もあった。しかし、ハイスコアを狙う環境としては繁華街の「アミューズメントスポット」は適していなかった。私にはそれがどうにも不満であった。
ハイスコアを狙う環境を求めて、私達は当時福岡での、いや、全国的にもトップレベルのゲームプレイヤーが集っていた「モンキーハウス本館」に向かった。当時は「メタルホーク(1988年ナムコ)」で「G.M.C.-えるす」氏が、「ウイニングラン(1989年ナムコ)」で「G.M.C.-HSA」氏が、まさに神業としか形容のしようがないプレイを繰り出していた。失敗を恐れずに攻め、失敗しても諦めたりせずにすぐさまリトライするハイスコアプレイヤーのプレイスタイルを初めて目の当たりにし、私は自分のプレイの甘さを思い知らされた。それまで私は効率的なスコアパターンの構築などをあまり重視せず、動体視力と反射神経にものをいわせて「なんとなく」スコアを出していた。それでは全国1位を狙うプレイヤーには到底敵わぬのだと私はこの時に悟った。パターンを突き詰めた「G.M.C.-やちょ」がプレイする「ロンパーズ(1989年ナムコ)」は、私のプレイするそれとはまったく別のゲームと言ってもよかった。

*1:シューティングゲームが衰退が嘆かれて久しいが、その大きな原因は良く言われるように「難度の上昇」にあるのではなく、家庭用ゲームで育ったユーザーの嗜好との乖離にあると私は思う。任天堂ファミリーコンピューターなどで「友達と遊ぶツール」としてのビデオゲームの姿に慣れたユーザーは、一人でしか遊べないシューティングゲームに魅力を感じないのだ。上記したカプコンシューティングのように、二人同時プレイにフォーカスしたシューティングゲームはその後ビデオシステム彩京)が継続的にリリースし、安定したインカムを記録していたが、現在はそれも途絶えてしまった。近日リリースされたケイブの「虫姫さまふたり」がタイトル通り二人同時プレイに注力した作品になるのではとささやかな期待を寄せていたのだが、出荷された作品がどのような内容であったかは、プレイした皆様がご存知の通りである